雪男

深夜。
雪明りでぼんやりとしている山をunaは手をこすりながら登ります。
羽根のついた帽子をかぶっていてよかったと思いました。

空はやや明るくなってきていますが、体の震えが止まりません。
あごががくがくと音を立て、手先と足先がかじかんでいやな痛みを感じます。

頂上はまだまだ遠くunaの体もいうことを聞かなくなくなってきました。
まぶたが重くなり何も考えられなくなってきます。

unaは自分でもわからない内に目をつぶっていました。
故郷の星の夢をみました。
「ふぉぉぉぉ」という動物の鳴き声がして目が覚めました。

雪男です。

山の向こう側に白く動く大きな生き物の姿がみえました。
あれだ、とunaが動こうとすると足元の雪が崩れました。

どさどさどさー 
と流れた雪の音を聞いてたくさんの雪男たちがこちらを見ていました。

「うな が あいてだ!」
unaが叫びながら、果敢に飛び出しました。

言葉の勢いとはうらはらに、雪で足をとられるので、
慎重に一歩ずつゆっくりゆっくり近づいていきました。

雪男たちは動きません。それどころか、よくみると座っているのです。
油断をさせてからいっきに襲いかかるのかもしれません。

懸命に進みましたが、雪男たちまではまだまだかなりあります。
そこで、もう一度
「うな が あいてだ!」と叫んでみました。
しかしどうしたことでしょう。
雪男たちは襲いかかってきません。
お腹がいっぱいなのかもしれないとunaは思いました。

「わー、わー、わー」といいました。unaはゆっくりゆっくり進みました。
距離はまだかなり離れています。

遠くの雪男たちは大きな手を雪の中につっこみ、ぐるんぐるんと回転させます。
まるで雪の上を泳いでいるように、山の上のほうへと登っていきました。
はるか上の頂上に軽々と到着した雪男たちは、ためらいもせずにダイブしました。
高い高い切り立った山頂から崖下へと雪男たちが次から次へと飛び込みます。
手をひろげて体を回転させながら次々と落ちていく姿は
まるで雪のようにも思えました。

「うなが あいてだ って いったのに」とunaはつぶやきました。
せっかく見つけたのにみんなどこかへいってしまったのです。
unaは下まで降りるか、ほかの場所を探すかを考えました。

すると、一匹だけ小さな雪男が取り残されています。
みるとひとりで雪だるまをつくっています。

unaは、あいつは飛び込みがキライなんだ、と思いました。
きっと雪穴をほったり、坂をつくったり、するのがすきなのです。
あれなら捕まえられるかもしれません。
unaは雪のうえをごろんごろん転がって近づきました。

近づいてみると、子供の雪男とはいえ結構大きな体をしています。
unaが近づくのをさほど気にしていないようで、黙々と雪だるまを丸めています。

unaはしばらくその様子をみていましたが、
ふと思い立ち石ころを探しはじめました。
ちょうど崖の裂け目が黒っぽい石があったので、
それをひろい、石で雪だるまに顔をつけました。
すると雪男は少しさびしそうな声をあげました。

(どうしたか)とunaが雪男のほうをみて気が付きました。
雪男は顔がないのです。だから雪だるまの顔をみて悲しげに鳴いたのでした。

unaは雪だるまの石を取って、雪だるまに自分の帽子をかぶせました。
するとどうでしょう、なかなか格好のよい雪だるまにみえました。
これには雪男も大喜びしました。
ぐるぐると雪だるまのまわりを走り回り、帽子をちょこんと触ります。
そうしてまた雪を夢中で丸めていきます。

雪男はさっきのものよりも、大きな雪だるまをつくりました。
そしてunaのほうをじっとみています。
きっとこっちの雪だるまに帽子をのせてほしいのだな、とunaは思いました。
案の定、unaが帽子を乗せかえると雪男は飛び上がらんばかりに喜びました。

そうして、また雪だるまをつくりはじめます。
何度も雪だるまをつくり、unaが帽子を乗せることを繰り返しましたが
雪男は一度も自分から帽子をとったことがありません。
こいつは偉い奴だ、とunaは思いました。
人のものを盗ったりしないのです。

雪男が一際大きな雪だるまをつくったとき、unaは帽子を雪だるまではなく
雪男にかぶせてあげました。

すると、どうでしょう。
雪男がすっかり興奮し、そこら中をジャンプし、
雪に飛び込み、大きな声で吼えました。
そして散々飛び回った後に大きな指で器用に帽子をつまみ、
ゆっくりunaの頭にのせてくれました。
でも喜びようがあまりにすごいので「ぼうし あげる ぞ」とunaはいいながら
雪男にまたかぶせてあげました。

雪男のゆびが震えていました。
そして帽子をつかみ、山に響き渡る雄たけびをあげました。
雪山は雄たけびによって、雪崩が発生しました。
ドドドドドーという雪の塊が津波のように押し寄せてきます。
雪男はunaを肩にのせて、雪崩にむかっていきました。
そして雪崩に飲み込まれようとした瞬間に
大きく宙に飛び雪の波のうえに座りました。
雪男の肩にのっかったunaは大喜びで、雪崩の波乗りを楽しんだのでした。

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unaはすっかりこの雪男が気に入りました。
帽子をもらった雪男のほうは、それ以上にunaになついています。
大きな体のくせにのどをごろごろ鳴らし、ぴったりunaに体を密着させてきます。
雪男の体は温かくまるでストーブがあるみたいです。
unaと雪男はとても仲良くなり、その晩は雪男に包まって雪山で眠りました。

翌朝。
相変わらずごろごろとのどを鳴らす雪男にunaはいいました。
「うな のともだち さらわれた。 うな のともだち たすけて ほしい」
雪男は雄たけびをあげました。
そしてunaを肩にのせて、雪山を弾丸のような勢いで滑り降りていきました。
(こいつは ことば もわかるんだ)とunaは風を受けながら嬉しく思いました。

unaは雪男の肩にのっかりながら、町へと入りました。
のっしのっしと歩く雪男をみて、町の人たちはざわめいています。
建物の窓から、大勢の人が顔をだし、手を振ったりしています。
まるで有名人のパレードのようです。

unaは雪男の肩の上から話しかけ、そのまま赤い建物に入りました。
hunaをさらった奴がいる場所です。

受付嬢は雪男の肩にのったunaをみると
「い、いらっしゃいませ、こちらへどうぞ。」と引きつった笑顔をみせ
「大至急、全員応援を」とマイクにむかっていいました。
雪男は壁際にどーんと腰掛け、unaはその肩からにらんでいます。

すると奥の部屋から、何十人ものスーツをきたサラリーマンたちが出てきました。
そこにはなんとhunaを誘拐した「部長」までがいます。
unaは「ひうな を かえせ!」と怒鳴りました。
unaが怒鳴ると雪男が腕を振り下ろします。
ばあん、という破裂音がしてカウンターが真っ二つに割れて破片が飛び散る。

入り口にいる大男も頭を抱えしゃがみこんでしまっています。

「ま、まあ、まて、まって、待ちなさい。」と部長がいいました。
「そんな風に暴れられると、余計にhunaさん、お返しできなくなりますぞ」

「なんで だ?」とunaはいいました。

「hunaさんは、もう売られてしまっているのです。だから暴れても帰ってきません。」

unaは息が止まるかと思いました。それにあわせて雪男もおとなしくなりました。

「ここはひとつ、こうしませんか。」目を見開きながらも落ち着いたそぶりでいいます。

「hunaさんを買われた方は、ずうっと雪男を探しているのです。」
「つまり、その雪男を交換するといえばよろこんで
hunaさんを返していただけるはずですし、差額も現金で差し上げますよ。」

unaは部長をにらみつけました。
雪男はぐぅとなさけない声をあげました。
まるですべての言葉を理解しているかのごとくです。

unaは雪男をみました。
大きな体のくせになんともさびしそうな姿にみえます。

「さぁどうされますか?」部長の笑顔がすこし引きつっています。

unaはhunaに教えてもらった方法を思い出しました。
こういうときは、息をゆっくり吐き出せばいいのです。
そうすると正しい道がみえるはずです。

「さぁ」一瞬部長の声が震えました。

すかさず「ひうな かえせ!」とunaは大声でいいました。
雪男は丸めていた背中を伸ばし、手を大きく広げてから床をたたきました。
どどん、と縦に大きく揺れたと同時に建物のガラスがすべて割れ、
人さらいの社員たちの頭上に降ってきます。
社員たちはぎゃーといいながら、逃げ惑いました。

そして、部長をつかみあげます。
「ひうな を いま かえせ」とunaは叫びました。
雪男は部長を一度ぐるんと振り回しました。
部長の頭がすごい速度で地面をかすりました。

社員全員が青ざめてみています。
unaはちょっと部長のことが心配になりながらも聞きました。
「ひうな かえすか?」

「……………」部長は目を見開いたまま、無言で一点をにらんでいます。

それをみた雪男がもう一度振り回そうと手をあげたときに社員の
ひとりが声をあげました。
「か、か、かえします、さっきの部長のあれ、うそですから、、、
いま、ご案内します。」

雪男が下ろしてみると部長は目を見開いたまま気絶していたのでした。


古いマンションの5階の古めかしい部屋にhunaとuma(馬)がいました。
uma(馬)はhunaに寄り添っています。

「ウナ!」とhunaは叫びました。
「ひうな たすけ にきた」とunaはいいました。

ドアの間から廊下の白い巨大なものをhunaはみました。
「あれは何?」とhunaは驚いていいました。
「ゆきお とこ だ。ともだち だ。」とunaは自慢げにいいました。
廊下にでてみると雪男はとても人懐っこく、巨体をすりよせてきます。
「そういえば、雪男は氷の国の神話にもでてくるわ。」
「神話では親切な生き物で国づくりで大活躍するのよ。」

その後unaは別の部屋の香水師をはじめ、捕まっている全員を解放させました。

人さらいの会社は、これにより閉まることになりました。

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unaの旅に雪男が加わったことで、ほとんど困ることは起こらなくなりました。
すばらしい走りのuma(馬)が馬車をひき、香水師が目的地を把握し、
力のつよい雪男は用心棒です。
unaもhunaもとても安心しました。

unaたちは、森をどんどんと北上していきました。
雪男は身体能力が高いようでuma(馬)が引く馬車のスピードに軽々とついてきます。
そして勘が鋭いのか、馬車よりも先回りして障害物を跳ね飛ばしたりまでしました。

あるときunaたち一行を森のなかを光る目が追いかけていました。
巨大な熊の群れに囲まれたのです。
「熊退治の匂いはいまはもっていないな。」と香水師がいうので
unaたちは震え上がりました。
しかし雪男は小躍りしながら、熊の群れに近づき、熊をばーん、と平手で打ちました。
熊はワイヤーでひっぱられたみたいに飛んでいき谷底に落ちていきました。
ほかの熊たちは雄たけびをあげて威嚇しましたが、
雪男がその10倍くらいの雄たけびをあげるとにげだしました。
これ以来、unaたちはどんな猛獣たちにも襲われなくなったのです。

(つづく)