林道を馬車は走りました。
今朝ふった雨の草露がきらきらとひかっています。
地面の下を水が流れていく音がしました。
unaは、みずをいっぱいのんで木もうれしそうだと思いました。
それに答えるように木々が音をたてます。
木立の間からのぞく山は、強い日差しのせいでゆらめいているようです。
空は高く、大きな白い鳥がゆっくり飛んでいきました。
山のふもとの道には、うさぎや亀や鹿や牛、かえるにオオカミと
大変な数の動物たちがひしめき合っています。
そしてその動物たちが山の頂上までびっちりと並んでいて、
道にそって食べ物屋やら、薬屋、驚いたことにお風呂屋までありました。
unaたちはひとまず一番最後尾に並びました。
しかし、いつまで経ってもまったく列は動きません。
上のほうをみてみると、居眠りしている動物もいます。
一番最後尾はちいさなねずみで「どーしようどーしよう」
といいながらグルグル回転しています。
「どうした か?」とunaが聞くと「しらないやつにはなしかけられた、どーしよう」
といいました。
unaがもう一度聞くと「なにをきいたらいいんだろう、どーしよう」といいました。
香水師が鼻をひくりとさせました。
「この列には、十七万六千七十三匹の動物が並んでいる。
そして一匹減るまでに約1時間かかっている。」
それを聞いてhunaが「一日20時間相談したとして、8803日。
24年後には山の頂上につける計算ね。」といいながらなにか考えています。
unaはコクリコクリと居眠りをしています。cunaは団子屋に釘付けです。
しばらくすると「特別招待されたのかもしれんぞ。」と香水師はいいました。
じょじょに風が強くなり、そこらに咲いている花を散らしました。
花びらはレインボーのグラデーションをつくりながら、跳ね回りました。
動物たちが頭を抱えて地にふせていると、unaたちの後ろの草むらに
小山くらいの高さのある
とんでもなく大きな鳥が舞い降りました。
「こいつに乗れということだろう。」と香水師はいいました。
居眠りしていた動物たちも、風で飛ばされたねずみも、
こんな大きな鳥はみたことがありません。
hunaを先頭にして、大きな鳥の元へ歩いていきました。
unaは眠たそうに目をこすりながら、みんなの後をついていきます。
鳥の背中に登るのは、羽根の山をロッククライミングするようなものでした。
unaは鳥の羽根を何本も引っこ抜きながら、ぶら下がるのですが
なかなかうまく登れませんでした。
unaはあきらめて、素直に雪男に助けてもらうことにしました。
雪男は、unaはもちろん、uma(馬)や馬車までも軽々と持ち上げて、
鳥の背中へと駆け上がって生きます。
そしてひとつ乗せるごとに、unaに得意げに報告にきます。
unaはそのたびに、雪男をなでてあげました。
とんでもなく大きな鳥の背中は、ちょっとした牧場くらいありそうです。
unaたちはもちろん、雪男とuma(馬)と馬車まで全部乗っても相当に余裕があります。
鳥はunaたちが背中にあがるなり、unaたちのことを忘れているかのごとく、
空へと急上昇しました。
unaやhunaは必死で背中の羽根につかまり、雪男は馬車やuma(馬)を
押さえながら、なんとかやり過ごしました。
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鳥が降り立った場所は、山の頂上でした。
そこには氷の素材でできた山小屋があり、おびただしい数の動物が集まっていました。
うさぎや牛、犬や猿、蛇にスズメ、蟹にらくだ、人食い虎までいます。
いかにも、仲の悪そうな動物が、礼儀正しく円形に整列しています。
そして、その真ん中には、黒い髪の毛のかわいらしい女の子が
ちょこんと座っています。
そうして、動物たちとなにやら話をしています。
雪男はunaたちを一人一人肩にかついで、鳥の背中を滑り降りました。
ようやく全員が降りたときには、みんな頭がぼさぼさになっていました。
unaたちは、すこしぼんやりとしながらも円の一番外側に並びました。
それを人食い虎がチラリとみました。
すると、黒い髪の女の子はたちあがって、
「ウナさんたち、ようこそお越しくださりました。
もう少しで相談が終わりますので、小屋でおまちください。」
とても可愛らしい声でいいました。子供のような声でした。
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hunaは氷の小屋をまじまじと観察しました。
氷の国のお城の質感とそっくりです。
氷の壁を触りながらhunaは国に残してきた人たちのことを考えました。
「音の神か、見た感じはあんたと変わりないな」と香水師が声をかけます。
夕日が差し込む小屋の窓からは、蟹とスーナが話をしているのがみえました。
あれからあの行列がどのくらい減ったのでしょう。
蟹も非常に熱心に話をしていましたが、うれしそうにハサミをあげて帰っていきました。
ふいに、氷の扉が開きました。
「わたしは、スーナといいます。」と黒い髪の女の子はいいました。
これがみんなのいう「音の神様」です。
しかしとても神様にはみえないとhunaが考えました。
するとhunaをみて「別に神様じゃありませんよ。」と笑いました。
hunaが唖然としていると「さて、時間がありませんね。ざっと説明しましょう。」
というなり、黒板に絵を描き始めました。
「ウナさん。あなたは純血のuna族ですね。大昔にこの星にやってきた
我々の祖先もあなたそっくりだったはずです。」
突然名前の呼ばれたunaはびっくりしてしまい、なぜだか愛想笑いを浮かべました。
「大昔にやってきた祖先?」とhunaは聞きました。
「hunaさんもcunaさんも私(suna)もウナさんの星がルーツなのですよ。」
といいながら黒板の図を指差します。
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「大昔、ロケットにのった学者たちが現在の星へとやってきました。
その中に私たちの祖先であるuna族がひとりいたのです。」
「学者たちは、氷を自在に成形できる技術を使い、氷の国をつくったのです。」
「現在の星にはほとんど文明がなかったので、氷の国は大国になりました。」
「そのころ祖先のunaは自然妊娠しました。una族は
数千人に一人程度しか子供を生むことがないので
たいへん珍しいことです。
そうして生まれたのがhunaさんの祖先になります。子供を産んだのち、
彼女はなんらかの使命をおびて
氷の国をでました。」
「なんらかの使命?」とhunaがききました。
「残念ながら、その使命がなにかを知るものはいません。」
「国をでた彼女は道中の森で、また自然妊娠しました。cunaさんの祖先です。
そしてこの山を登り、私(suna)の祖先を産みました。」
「まるで、ウナさんは、大昔の祖先の道をトレースしながら進んでいるようです。
なにか深い理由があるのかもしれません。」
この話にunaもhunaも愕然としました。にわかに信じられる話ではありません。
「そうだ、私の手作りのおいしいスープがあるのよ。一度食事にしましょう。」
とsunaはいいました。
sunaはあたためたスープをみんなによそってくれました。
雪男とuma(馬)は、たくさんの動物たちと外で遊んでいます。
cunaはごきげんで「いっぱいいれろ、いっぱいいれろ」と歌っています。
unaも負けじと「うなもたくさん!」といいました。
おいしそうな色合いと匂いに、おなかもぐぅとなります。
unaとcunaがスープの取り合いをしている間、hunaは無言でした。
(実はずっと氷の国のことが気になって仕方がないのです。)
「さぁ、遠慮なくいただいてください。」とsunaは笑うと
unaとcunaは元気に「いたらきまーす」といいました。
「あの…」
「氷の国のことを知りたいのです。」とhunaはいいました。
unaとcunaは勢いよくスープに口をつけましたが、ふたりとも硬直してしまいました。
この世のものとは思えないほどおいしくない、のです。
あまりの味にcunaは泣き出してしまいました。
香水師はすごい形相でじっとスープをにらみつけています。
野生のものを食べなれているunaたちですら、対応しきれない味です。
hunaなど食べれば、記憶を失うかもしれません。
なんとかhunaにそれを伝えたいのですが、
真剣な顔で話をしているので声をかけられません。
「氷の国がどうなっているのか、混乱がないか、
うまく予算案は成立したか、、、それから都市開発の」
という言葉をsunaはさえぎりました。
そして少し下のほうを見つめました。
「正直にいったほうがよいかしら?」とsunaは聞きました。
「そうじゃなくては意味がありません。」とhunaはいいます。
「氷の国はかなり混乱しています。神官たちと大臣が対立、、、予算案は不成立、
都市開発には不正が起きていますね。国民は争いを起こしてしまっています。
、、、、もうすぐ死傷者もでます。」
「死傷者…」とつぶやきhunaはなんども首を振り天を仰ぎました。
「あなたのせいじゃありません。」とsunaがやさしい声でいいました。
「どうすれば国は戻りますか?」とhunaは聞きました。
「残念ながらお答えできません。」とsunaはいいました。
「それを教えなきゃ意味ないでしょう!」とhunaは声を荒げていいました。
その声に驚いて、またcunaは泣きました。
unaはそこらにあった布で、cunaの涙をふいてやります。
sunaは穏やかな声でいいました。
「あなたに危険が及びます。」
「なにもしなくては、国民が危険です。」とhunaは強い口調で抗議しました。
するとsunaは「わかりました。私のわかるかぎりお教えしましょう。」といいました。
「すべての問題を解決しようとするなら、
できるだけ早くロケットを見つけ出し、あなたたちの目的を果たし、
氷の国にロケットで戻る。この方法しかありません。」
「ロケットはどこにあるのですか?」とhunaは聞きます。
「普通に見える場所にはありません。」
「どういう意味?」
「この星には、いくつか、非常に強い力をもった場所、生き物がおります。
それらは力が強すぎて、私でもなにがあるのか見えないのです。
逆に言えば、それらのどこかに隠されているはずです。」
「強い力をもった生き物?」
「あなたがたが探している黒い修道服の老人、もその一人です。」
「近くにいるの?」とhunaは矢継ぎ早に質問します。
「強い力の場所はわかっても、そこになにがいるのかはわかりません。」
とsunaはいいました。
「もしかすると、支配人とやらもいるのかしら?」とhunaが聞きました。
「まさか。支配人なんて、もういないはずです。」とsunaは笑いました。
「支配人というのは、何者なんですか?」とhunaが聞きます。
「支配人というには、大昔にこの星を支配していた男よ。
そうね、奇妙な男だったみたいね。
もともとはどこにでもいる普通の人だった。
それがある日、自分の不思議な能力に気がついたの。
相手の心を支配する能力よ。それから彼は豹変した。
彼は人々に幻覚をみせ、人々を恐怖に植え付け国々を支配していったの。
この星の暗黒時代のお話よ。」
「気になる場所が2つあります。ひとつは大変古くから存在している強い力。
もうひとつは、つい最近現れた強い力。ロケットを隠せるとしたら
このどちらかだと思います。」
「ロケットだとすれば、最近のほう?」とhunaが聞きました。
「それはわかりません。」
(どちらにいけばいいのだろう)とhunaは思うと胸のあたりが痛くなってきます。
「私もお手伝いしましょう。」とsunaはいいました。
「…手伝ってくれるの?」とhunaが驚くと、sunaは笑顔でうなづきました。
「二手にわかれて探したほうが、早いですから。」
hunaはなぜだか涙がでました。
「ありがとう。」といってhunaはスープに口をつけた途端に、気絶しました。
何度も何度もunaが揺すって、ようやくhunaが目を覚ましました。
「…なにが起きたの?」とhunaはかすれた声をだします。
sunaは「相当疲れていたのね、熱もでたみたい。」とhunaにいいました。
(ほんとうはスープので気を失った)とunaは思いましたがそんなことはいえません。
あれからcunaは「まずいまずい」といって、ずっとグズっています。
sunaは音を見ることができるはずなのに、cunaの泣き声は聞こえないフリをします。
「私のつくったおいしいパンがあるのよ。」というsunaの声に、cunaは大泣きしました。
「ひうな いそごう」とunaがいうと、香水師がなんどもうなずきました。
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