契 約

「まあまあ、少し体を借りただけだ」とunaがいいました。
今度はunaの体に乗り移ったみたいです。
我にかえった香水師は、きょとんとした顔で成り行きをみつめました。

「なにして遊んでる?」とcunaが顔を出しました。
それをみて支配人が乗り移ったunaがギクリとしました。

とっさにhunaは「みんなでなぞなぞを出し合っているの」といいました。
「なぞなぞか!」とcunaが顔を輝かせます。

「おいおい、汚いぞ女王よ」とunaが小声でいいました。
するとすかさずcunaが「なに?なんていった?」と近寄っていきます。

cunaには幻が効かないことを思い出したのです。
そして支配人は幻が効かない相手を嫌がっています。

「人探しのなぞなぞよ。ウナに誰か別人が乗り移っているの。
乗り移っている人はどこにいるのかな?」
とhunaはいいました。

「それなぞなぞじゃない。」とcunaはふてくされました。
「その人が、なぞなぞ名人なのよ。」
「ホントか!」とcunaは目を輝かせます。
「そうよ。その人は、ケンカで負けたら、好きなだけなぞなぞ遊びをしてくれるわ。」
「ケンカ得意じゃない」とcunaはいいます。

「だったら雪男を連れていきましょうよ。
あなたが雪男にのってケンカすればいいのよ。」
「そうか!」とcunaはいいました。
そして
「あの木のほうにいる!」とcunaは叫びました。

「あの木の方向ね」とhunaがいうと馬車は方向を変えました。
「逃げた。山のほうだ。」とcunaがいいました。
「山へ向かって」とhunaがいいます。

支配人が乗り移っているunaの顔にあせりの色がみえてきました。
「なぞなぞ名人を逃がしちゃだめよ。」とhunaはいいました。

「氷の女王よ。わしと取引をせんか?」とunaに乗り移った支配人がいいましたが、
hunaはそれを無視しました。

するとunaに乗り移った支配人は、早口でいいました。
「お前たちの探しているロケットは、小さすぎるんじゃないのか?」
「…どういうこと?」とhunaは聞きました。

「あのロケットは100人乗りだ。向こうの星に、
どれだけの数の仲間が待っているか知っているのか?」
とunaに乗り移った支配人はいいました。

香水師は、驚いた顔をしながらも、その内容を聞き入っています。
cunaが「また逃げた、森にいった。」といいました。

「飛んできたロケットにはほとんど燃料が残っていない、つまり
苦労してきて、ロケットを見つけても、飛び立つことすらできない。」

「嘘ね。」とhunaはいいました。
「そう思いたければ、そう思えばいい。しかし氷の国はどうなるかな。」
とunaに乗り移った支配人はいいました。

hunaは無言で考え続けました。そして「契約っていったわね。」とhunaは聞きました。
「あるものをいただければ、お前の国もお前の仲間も助かる方法を教えよう。」

「あるもの?」とhunaは目をつぶり聞きました。
「お前の命だ。」と支配人はいいました。

「バカをいうな。お前はこれから雪男につかまるんだぞ。」
と香水師は口を挟みました。
「そうなれば、私はロケットのことを教えることはない。」
とunaに乗り移った支配人がいいました。

「止めて。」とhunaがいうと馬車は止まりました。
「どうした?」とcunaが聞きました。

「雪男に襲わせない代わりに、ロケットの場所を教えろ。」
と香水師はいいました。
「話にならん。多くの国民と仲間の犠牲をだすがいい。」
とunaに乗り移った支配人はいいました。

「本当にそれを教えてくれるなら構いません。」とhunaはいいました。
「なにをいっている。やめろ。」と香水師はいいましたが、気を失いました。
今度はunaから香水師に乗り移ったようです。

「ただし、命を奪うのは本当に国と仲間が助かってから、であればです。」
とhunaはいいました。
「ならば、契約成立だ。」香水師に取り付いた支配人は強い口調でいいました。

「よいか、ここより更に北に向かうがいい。燃えさかる火の海がある。
 その火は現実の火ではない。海のなかを歩いて進むがいい。
そこには箱舟と呼ばれるロケットがある。
 それに乗れば向こうの星にいき、仲間を救うこともできるだろう。」
と香水師に乗り移った支配人はいいました。

「箱舟とはなんですか?」とhunaは聞きました。

香水師に乗り移った支配人はそれには答えずにこういいました。
「今後は私は幻覚をみせないでおこう。つまり起こることはほ現実だ。
契約前に命を落とすなよ。」

香水師の顔色が元に戻りました。

「にげた!にげた!」とcunaはいいましたが、
真っ青の顔のhunaは馬車に号令はだせませんでした。

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疲れをしらない馬車は、速度を落とさずにどこまでもなめらかに走り続けます。
しばらくは文句ばかりいっていたcunaもやがて疲れて寝てしまいました。
横ではunaも寝息をたてています。
hunaは思いつめたように、車外をみつめていました。
「なにが契約だ。でたらめをいって逃げただけだ。」と香水師はいいます。
hunaはあいまいにうなずくと、また無言で外をみました。

しばらく走るとhunaは「止めて」といいました。
uma(馬)はゆっくりと歩みを止めました。
その振動で、寝ていたunaもcunaも目を覚ましました。

そとには、野生のいちご畑がひろがっていました。
ついてきている雪男も大喜びしています。
「少しいちご狩りをしましょう!」とhunaはいいました。

unaは「さんせーい!」と声をあげ、外に飛び出しました。
hunaもcunaも後につづきます。

unaは両手いっぱいにいちごを採ってきました。
hunaはいちごを川で洗います。

香水師は鍋に火をかけ、いちごをはちみつのはいった鍋にいれました。
unaはこげないようにゆっくりとかきまぜました。
熱で苺は赤い水になって、とろりといい匂いがしました。

いい匂いは胸の奥にあった真っ黒いものを包んで消してくれるように思えました。
少なくてもこの匂いが届く範囲は幸せな場所だ、とhunaは思いました。

こんがり焼いたトーストに、できたてのジャムをたっぷりつけて、
みんなで食べました。
外で食べるトーストは、とてもおいしくて、unaはほっぺが落ちるかと思いました。
cunaは鍋についたジャムをスプーンですくって食べています。

香水師は何もいわずにhunaをみていました。
「さあいきましょう。」とhunaはいいました。

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それから馬車と雪男は、まる一日走り続けました。
朝方に、白い煙と炎が燃えさかる海をみました。
cunaは「うその海だ。」といいました。
香水師は馬車の窓を少し開けると慎重に匂いをかぎました。
「炎の香りに深みがない。おそらくは偽者だ。」といいました。

「海のなかへ。」とhunaがいうと馬車は勢いよく炎の海へと走り出しました。
unaは目をつぶり耳をふさぎました。
馬車の外は、ここがまるで海の中のようにみえました。
しかし、車内に水の一滴も入ってきません。
馬車の車輪の音は地面をとらえ、その振動はまるで陸地のようでしたが
窓からは海の底へ、底へと向かっているようにみえます。

そして馬車が止まりました。

窓からは魚が泳いでいくのがみえました。
hunaは思い切って馬車の扉を開けました。

まるで本当の海の底にいるみたいです。
澄んだ海の向こうに、大きな箱のような白い舟がみえました。

unaは外にでるなり「わー」といって大きな箱舟にむかった走り出しました。
cunaは海中を泳ぐように、ふわふわとunaを追いかけます。

hunaと香水師が馬車をひいて、箱舟に近づくと
そこにはsunaの姿がありました。
「すうな も いたー!」とunaは大喜びです。

sunaはhunaをみて「つらかったわね」といい、そっと肩を抱きました。

「これはロケットなのかしら?」とhunaはsunaに聞きました。

「わからない。いろいろ試しているのだけど中にはいることができないの。
ただとても強い力と沢山の人が眠っているのを感じる。」とsunaが答えます。

それをきいてunaが箱舟の扉らしき部分を触ると、
目の前の扉が音もなく開きました。
雪男も馬車もそのままは入れそうな大きな扉です。
「開いた!」とsunaは声をあげました。unaも自分で驚いています。