箱 舟

箱舟の中に入るとunaは、壁がロケットに似ていると思いました。
青白い光が漏れてくるドアを開けると
unaたちは、たくさんの氷の透明な柱が並ぶ場所にでました。

「これは...」とhunaは絶句しました。
氷の柱のなかに大昔の服装をした人たちが眠っているのです。
「麝香牛がいる」と香水師はいいました。
大きな柱のなかには、みたこともない巨大な生き物まで眠っています。

驚きながら、ひとつひとつの柱を確認していたのですが、
unaはある事に気がつきました。
奥に行くにしたがって、服装が新しくなってきているのです。

unaは一番奥にある柱のほうへ走り出しました。

「いたーー!」とunaは叫びました。
「うなの なかま いたーー!」

一番奥の柱には、ロケットに乗ってきた仲間たちが多数眠っていました。
unaは、どんどんと柱をたたきましたが、びくともしません。

hunaは駆け寄って「あ」と声をあげました。
unaがたたいている横の柱には、自分そっくりの女の子が眠っていたのです。

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hunaは氷の柱の下にある光るパネルを操作し、ここから助け出そうとしました。

すると、響き渡る低い声が聞こえました。

「ついに此処まできたか。」

そこには修道服の老人が立っていました。
真っ黒な修道服を頭までかぶり、黒いベールをしています。

「やはり法王様だったのね。」とhunaはいいました。

修道服の老人は、黒いベールをはずしました。
少し影のある鋭い眼光の老人でした。

unaは驚きました。
列車の中で本を渡してくれて、氷の国の入り口でお世話になった人です。

「種明かしをしなくてはならんな。」と法王はいいました。

それから法王は、長い長い不思議な物語を語り始めました。

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法王の話。
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はるか昔、我々の祖先はテクノロジーを発展させ、文明の絶頂にあった。
その星では、生き物はほとんで働いておらず、
とても小さな箱が代わりに仕事をしておった。

小さな箱はロケットを作り、作物を管理し、衣服を縫った。
食料を安定供給するためにその箱が天候までを操るようになった。
祖先たちは、小さな箱に小さな箱を作らせ数を増やしていき
ついにすべて箱まかせの生活をするに至った。
そうなってから何世代か経ってからのこと、ひとつの箱のエリアが
変異を起こしてしまった。
生き物は変異が起きているのはわかったが何をすれば、元に戻るのか
すぐにわからなかった。ようやく解決策を見つけたころには変異が進化し、
問題と解決の追いかけっこになった。
悪いときに、悪いことは重なるものでな。
生き物同士の紛争がおきてしまった。
生き物は箱の修復どころではなくなり、争いを続けた。
やがて天候のバランスをくずし、大洪水を起こし、やがて星ごと自滅した。

紛争がはじまった直後に、一部の識者が別の星への脱出をした。
それがこの星だ。識者たちはまだ未開だったこの星に巨大な氷の城をつくった。
やがて氷の城のまわりに、さまざまな生き物が暮らすようになった。
そこは氷の国と呼ばれ、かつての星を思わせるほど、急速に繁栄した。

国をつくった識者たちは、まるで英雄のような扱いをうけた。
識者たちは、それぞれ自分の国を創ることをやり始めた。

それに強い危機感を持つ識者がいた。una族の祖先だ。
彼女は子供を身ごもった時に、夢の中で強い啓示をうけた。
自分の子孫たちが、同じ過ちを繰り返し、滅んでゆく夢だ。

彼女は出産後、信頼できる仲間の学者に子供を託し、ある行動にでた。
テクノロジーのすべてを小さな箱に記録し、
他のものすべてを破壊し、氷の国をはなれた。
やがて彼女は森のなかで身ごもり、その子は森の精霊に預けた。
そして彼女は山に登り、また身ごもり動物たちにその子を託した。

彼女は山にちいさな小屋をつくり、長い時間をかけて大きな船をつくりはじめた。
それがこの箱舟だ。
かつての星のように国中が洪水にのまれようと、すべての種子が生き残れるように
船のなかに年をとらず眠り続けることができる冷たい箱をつくった。

そうして、少しずつさまざまな種を箱舟に保存していった。

彼女は、延命装置を使いながら、長い間それを続けた。

やがて彼女も自分の命が長くないことを感じた。
そこで、彼女はこの船と未来の技術を引き継ぐ資格のあるものを探した。

その頃、歴史は暗黒時代をむかえていた。
ある一人の不思議な力をもつ男が現れたのだ。
その男は、相手の精神を自在に操り、幻をみせる能力をもっていた。
その力を使い、男はほとんどの国を支配するようになった。
彼は残忍で享楽的な男で、多くの犠牲者がでた。

見かねたuna族の祖先は、氷の国の娘と幻覚が通用しない
自分の森の娘の協力を得て
彼を捕らえ、冷たい箱に封印した。

封印はされたがひとつ問題があった。
支配人には、幼い子供がおった。
彼女は身寄りのないその子供を引き取り、教育を施し、育てあげた。
成長した子供は、地上に降り、引き継いだ知恵をもとに
巨大な教団を立ち上げた。やがてその教団は、すべての国に影響をもつ
神官を送り込んだ。
それが私だ。
私が支配人の子供であり、教団の法王だ。

私が教団を強固なものにするころ、una族の祖先は私に遺言を託し息をひきとった、
「この未来の鍵を引きつぐ資格のあるものを探しなさい」と。

教団は各国の元首の選出にまで影響を及ぼすようになっていた。
彼女の遺言を守るため、私は資格のあるものを探した。
だが、なかなかそういったものは現れない。
それから長い年月が過ぎた。

中には、そこそこ才能のあるものもいた。
氷の国の先代の女王がそうだ。彼女には私の影武者として動いてもらった。

そして、この星にロケットが着陸したのだ。
私は先代の氷の女王に乗務員の回収を命じた。
彼女は古くから伝わる相手の意思をうばう香水を持ち、ロケットにむかった。
私は不足している薬をつくらせるために香水師のもとへいった。
そして、この箱舟でロケットの回収を行い、目撃者の言葉を封印した。

その後、あのロケットから逃げ出した乗務員がいることがわかった。
私はその者をみて驚いた。
まるで偉大な識者の祖先そっくりなのだ。

私は考えた。
この者が祖先と同じ道を通り、苦難を乗り越えることができれば、
未来の鍵を託すことができるはずだ。

私は乗務員が氷の国を目指すように、少しばかりの手を回した。
すべてではないがいくつかの困難も裏で手を引きつくりあげた。


お前たちは、森の国まで私たちを追いかけ、私は箱舟を呼び隠れた。

乗務員は祖先ほど知恵はなかった。しかしその信念と素直な性格により
協力者をむかえ次から次へと試練を越え、
山で育ったものは舟の目前まで辿り着いた。

私は「支配人」を眠りから覚まし、最後の試練を与えた。
かつての星の支配者をしのぐ事ができなければ、この星の運命は託せない。
しかし、お前たちは知恵を使い、祖先と同じように支配人を退け、ここに辿り着いた。

もはや、お前たちの力を疑うことはない。
この未来の技術を引き継がせよう。

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そういうと法王は、ちいさな白い箱を指差しました。
「柱にこれを当てると解凍できる」
法王はちいさな銀色の鍵をhunaに手渡しました。

hunaは、受け取りましたがなんといってよいのか判断がつきません。
unaも長い話を頑張って聞きました。
内容は後でhunaに教えてもらおうと思いました。

「この舟と、箱と、未来への鍵は、お前たちに託した。お前たちの好きに使うがいい。
私は父のもとへと向かい、彼の力を封印しなくてはならない。」
というなり、箱舟を出て行きました。

「時間がない。」香水師がhunaにいいました。

hunaは我に帰りました。
そうです、これからが本来の目的なのです。

銀色の鍵を、unaが眠る氷の柱のひとつへ差し込みました。
すると氷が煙のように消えてしまい、中のunaが倒れこみました。

unaは、仲間のunaを抱え起こしました。
起こされたunaは「ねむい」といいました。
hunaは、すべてのunaたちの柱を解凍しました。
船内はたくさんのunaでいっぱいになりました。

そして、hunaは自分そっくりなものが眠る柱に鍵を差し込みました。
氷は煙のように消え、白いパイロットスーツをきたhunaが倒れこみました。

hunaは“パイロットスーツのhuna”を抱きかかえました。
(信じられない)とhunaは思いました。
どちらが自分なのかわからなくなるくらいにそっくりなのです。
“パイロットスーツのhuna”は、まぶしそうに目を開きました。

見つめあう2人の間をみたunaは「ひうな、こっちはひうな です」とhunaにいいました。
そして「ひうな、こっちはひうな です」と”パイロットスーツのhuna”にもいいました。

“パイロットスーツのhuna”は、
ぼんやりとしながらも女王hunaが自分を抱きかかえているのがわかりました。

女王とは初対面なのですが
これほどまでに似ているとは思っていませんでした。
女王にあったら、謝罪しなくてはいけないと思っていたのですが
なぜかそんな気にもなりませんでした。

「これはすごい。」と香水師はいいました。
部屋に中には、たくさんのunaとふたりのhunaがいるのです。
cunaも、uma(馬)も雪男もたくさんのunaに大喜びしていますが、
それどころではありません。

「こいつを操縦してunaの星までいかなきゃいかんが、法王を追うか?」
と香水師はいいました。

「たぶん操縦は、私ができます。」と”パイロットスーツのhuna”がいいました。
「わかりました。お願いします。」
とhunaがいいましたが、声がまったく同じに聞こえます。

そしてhunaは「unaの星に向かいます。」といいました。
「はーい」と大勢のunaたちが答えました。