エピローグ

はるかはるか遠くまで歩いてきた道、そこには木でできた、
小さな看板がたっていました。
看板には「この世の果て」と書いてあります。

奇妙な場所でした。
広々とした草原で、草も木も花もあるのですが、動物がいません。
そのせいか、自分の歩く音と息づかいだけがとても大きく聞こえます。

ウナは草原を歩き続けました。
すると、すこし先に空中に真っ黒い影のようなものが
浮かんでいるようにみえました。

なんだろう、と思いウナは近づいていきました。
黒い影は思ったよりも大きく、そこだけ何もみえません。
ウナは影に回り込みながら近づきましたが、
黒い形があるだけでそこになにも見えませんでした。

手を伸ばせば、影まで届きそうな距離に近づいたときに、ふと足元をみました。
なんと影はすこしずつ広がっていて、影にはいった草が色を無くし、
崩れていっているのです。
ウナはあわてて逃げ出そうとしました。

すると、影はあたりにいくもできていました。
そのどれもぶるぶると震えており、少しずつ大きくなっています。
影に触れられると、草も花もあっという間に色を失い、ぼろりと崩れていきます。

ウナはあたりを見回し、影のない場所を探しました。
しかし、影はすごい勢いで増えていって、そこらじゅうが真っ黒になっています。
左右から巨大な壁のような影がぞぞぞと近づいてきました。
思わず宙を見上げると、上からも影が滝のように落ちてきます。

ウナはあたりを必死で見渡しました。
黒い柱のむこうに、色がみえた。
たくさんの蝶がとんでいます。
ウナはせまりくる影をかわしながら走りました。

近づくとすごい風で押し戻されそうになりました。
この風で黒い影をはじいているのです。unaは目を凝らして入り口を探しました。
この風は蝶の羽ばたきで起きているに違いありません。
ウナは目をつぶり、蝶が一番少ないところで飛び込みました。
ばさばさばさ、と体中に蝶が当たりました。
あたりはすべて真っ黒な影の中に包まれました。

ウナが飛びこんだ蝶のなかは、とても穏やかな場所でした。
まるで台風の目のなかのように、風もなく気温も穏やかです。
黒いドレスをきた女の子がふたり座っていました。

「あらら」とオレンジの髪をした女の子がいう。
「おきゃくさま」と白い髪の女の子がいう。

「おもてなししましょう。」とオレンジの女の子がいえば
「紅茶は好きかしら?」と白い子が応えます。
「偶然にもちょうど一杯分の紅茶とお湯があるの」
「まぁ偶然。でもこれは失敗できないわ。」
白いテーブルとイスのセットが置いてあります。
彼女たちのまわりには蝶が飛び交い、風の柱をつくっています。
彼女たちが動くと蝶もその形に動き、影を押しやります。

「お姉さま問題が起きています」と白い髪の女の子がいいました。
「お砂糖をいれたのかお塩をいれたのかが、わかりません」
「困ったわね、口をつけて味見をするわけにもいかないし」
とオレンジの髪の子が答えました。
こちらがお姉さんなのでしょうか?
「たぶんお塩だと思うの。どうしましょう?」
「そうだ、紅茶というからいけないのよ。」
「さすがお姉さまね。」と白い髪の子がいいました。
「自家製の飲み物はものはいかがですか?」と白い髪の子はいいました。

ウナはあっけにとられました。
蝶の風で守られているとはいえテーブルのまわりには、
上も下も右も左も真っ黒な影に覆われています。
しかしこの子たちはとても楽しそうにしています。

ウナは塩味の紅茶をすすりました。

「どうかしら?」と白い髪の女の子が聞きました。
ウナは「しょっぱい」といいました。
するとふたりは顔を見合わせながら「ところであなたどなた?」と聞いてきました。
「うな だ。」というと、ふたり揃って「DUNA(デューナ)よ。」といいました。


ウナは影のことが気になりましたが、
蝶は優雅に羽ばたきつづけて影を近づけません。
ウナは、いままで起きたことを話しました。
長い話になりました。
白い髪のDUNAは、うとうとして、オレンジのDUNAにつつかれたりしながらも
話を聞きました。それでも話は終わらず、
白い髪のDUNAもオレンジの髪のDUNAも睡魔と闘いながら話をききました。
ウナはそれでも一生懸命に話しつづけました。
さらに長い話になりました。聞いていたふたりのどちらかが寝てしまっても
起きているほうに話続けました。
やがてウナの声もかすれてしまい、ふたりのDUNAが完全に寝てしまったときに
ウナの話は終わりました。
三人はすっかり眠りに落ちていきました。

ウナが顔をあげると目の前には楽園が広がっていました。
緑の草原がどこまでも広がり、果実のなった木には小鳥たちがうたい、
子犬が湖の横を走って行きます。
あれは夢だったのか、と思いましたが
ウナがうつぶせになっていたのは、同じ白のテーブルセットでした。
紅茶入りのカップも同じです。
しかし空には青空がひろがっています。

おはよう、とオレンジの髪の女のDUNAが声をかけました。
おいしそうなホットサンドとスープを持っています。

「ここはどこか?」とウナは聞きました。

「ここは天国よ。」とオレンジの髪のDUNAは答えます。
「後ろは地獄。」と後ろのほうから声がしました。
ウナがびっくりして後ろを振り向くと、恐ろしい光景でした。
大地は枯れ果て草もなく、空からは重苦しい雲がのしかかっているようです。
なによりも、不気味な生き物がいたるところにいるのです。
青い体をもった四つんばいの熊のような生き物は、目をギラギラさせ
よだれをたらしながら、イライラと歩き回っています。
天国と地獄の境目にはたくさんの蝶がとまっています。

そのうちの一匹の熊のような生き物がこちらに近づいてきました。。
よだれを垂らしさせながら、まるでホットサンドとスープの匂いに
釣られているようです。
するとオレンジの女のDUNAがいいました。
「天国から地獄は見えても、地獄から天国は見えない。」
すると熊のような生き物は来るのをやめて、あたりを徘徊しはじめました。
「あれを鬼とかいう人もいるわ。」と白い髪のDUNAがいいました。

ふしぎだ、とウナは思いました。
ウナの前の世界は色に溢れ、とてもおだやかで、美しい風景です。
ウナの後ろの世界は、おどろおどろしい光景が続いています。

うなは自分が死んでしまったのかと思いました。
ただ手をみても、いつもと変わらない気もします。

「ええと、お友達の女の子を生き返らせたいって話だったわよね。」
とオレンジのDUNAがいいました。
「いきかえらせるのか?」とウナは驚きました。
白いDUNAが「そんなこといってないんじゃないの?」と小声でささやきました。

「そうじゃなかったわね、ええと天国の見学、そう、見学しにきたのよね」
とオレンジのDUNAはあわてていいました。

ウナは「ともだちいきかえるのか?」と真剣な目でききました。

「あら、お姉さま、どうするの?」
「きっとこの子そんな事いってないのよ。」と白い子がいいました。

「だって、しょうがないじゃない、あなただってどういう話かきいていた?」と
オレンジのDUNAはいいました。
「そりゃ聞いてなかったけど、生き返らせたいの?なんて自分からいう?」
「だいたいそんな話かと思ったのよ」
「規則違反よ」と白いDUNAはいいました。
「いきかえるのか?」とウナは聞きました。
「でもお姉さま自分でけしかけたのよ。」と白いDUNAは目を細めていいました。
「わかってるわよ」と少し困った顔をしながら、オレンジのDUNAはいいました。
「いきかえるのか?」とウナは聞きます。
ふたりは少し困った顔をして「ひとりだけよ」と答えました。

すると白い女のDUNAは「それよりも、私紅茶をいれたの。」嬉しそうにいいました。
「今度は大丈夫?」とオレンジの女のDUNAは心配そうに聞きました。
白い髪のDUNAは首をかしげました。

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「お友達はどこにいるんだっけ」とオレンジのDUNAが聞きました。
「私のほうじゃないと思うけど」と白い髪のDUNAがいいました。
「意外とわからないわよ」とオレンジのDUNAがいいながら目をつぶりました。
すると3人は、ふしぎな場所にたどり着きました。

荒廃した岩だらけの場所の真ん中に、竹でできた小屋のようなものがあります。
そして大きな竹のなかにhunaはいました。
「ひうな!」とウナは大きな声をだしましたが
まったくきこえていないようです。
「地獄側からこちらはみえないのよ」と白い髪のDUNAはいいました。
「ひうながじごくか?」とウナは聞きました。
「魂の契約をしてしまうと、例外なく地獄にいくの。」
「でも彼女はかなりの善行があるから特殊な地獄ね。」

「最初はあそこから出ようと、いろんなことをするわ。」
「あの小屋で彼女は、外を見て、すわって、
昔の新聞を読んで、また外をみて、服をたたんで、
また新聞を読んで、掃除をして、また、同じ新聞を読む。」
「たべる必要も、ねむる必要もないからね。」
「別に何をしてもいいのよ。ただあそこから出られないだけ」
とふたりのDUNAはかわるがわるいいました。

「ひうなをたすけて」とウナは懇願しました。

しかしふたりのDUNAは「地獄にいるものは手助けできないの。」といいました。

「それでもいつか気づくでしょうから。」「それまでここで待ちましょう」
「いつか」とウナは不安げに聞きました。
「ここには時間もないから、いつまでとはいえないわ」とふたりのDUNAはいいました。

閉じ込められたhunaは、なんとか竹の小屋からでようと様々な試みをしました。
竹の接合部分を広げようとし、スプーンの柄で少しずつ、壁を削りました。
しかし、ふしぎなことになにをやっても、すぐに元に戻ってしまうのです。

hunaは、小屋のなかで、外を見ました。
部屋の中には、かなり昔の日付の新聞が一部ありました。
しかたなく昔の新聞を読んで、また外をみて、服をたたんで、
また新聞を読んで、掃除をして、また、同じ新聞を読み、
深いため息をつき眠りました。

朝になって、目を開けるときにすべてが夢であってほしいと願いました。
しかし、そこの場所はやはり竹のなかでした。

それからずいぶんと時がたったかに思えました。
やがて、hunaは新聞を読むのをやめました。
外をみて、座って、服をたたみ、掃除をします。
やがてhunaは服をたたむのをやめました。
また長い時間がすぎたように思えました。
hunaは立って部屋を歩くこともやめました。
そうすると部屋が汚れることもなくなり、掃除をすることもやめました。
そうして、hunaは外をみること以外はすべてやめました。
また長い時がすぎた時に、彼女に変化が訪れました。
外をみることをやめたのです。

しかし彼女はあるものを見始めました。

外の風景ではなく、自身の心のなかをみるようになりました。
やがて心を見続けた彼女は、hunaという役割を演じていることをやめました。
彼女はどこまでも深くリラックスしていきました。
どうしてこれに気づかなかったのか、と彼女は思いました。
自分というものを消してみると、最初から世界とつながっていたのです。
そのときにふしぎなことが起こりました。
「自分という意識」と一緒に、彼女をかこっていた「竹」も消えました。
荒廃した岩場だと思っていた場所は、緑豊かな草原でした。

それをじっと待ち続けたウナですが、肝心なときに眠っていました。
「さて、このコは返してあげなきゃ。」とウナをみてオレンジの髪のDUNAがいいました。
「そうね、疲れてるみたいだから、氷のお城のベットに戻しましょう。」
と白い髪のDUNAがいいました。

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「あなたに生き返ってほしいんだって」とオレンジの髪のDUNAがいいました。
「あなたは自由よ。」と白い髪のDUNAがいいました。
「天国にいくこともできるわ」とオレンジの髪のDUNAがいいました。
するとhunaは「天国も同じでしょう。なにもすることないんだから。」と答えました。

「でもよかった。生き返ったらずっとunaと一緒にいられる。」
オレンジの髪の女のDUNAは、困ったようにいいました。
「生き返るっていったって、また赤ちゃんからよ。」
「死んだ状態から、すぐに戻るんじゃないの?」とhunaは驚きました。
「それは、無理よ。」と白いDUNAがいいました。

「そんな...」と声をだそうとすると、彼女はまぶしさで目を開けていられなくなりました。
また生まれるんだ、、、、と彼女は感じました。
「あなたは前世でなかなか良い事をしてきているから....ふたつ特技をもらえるわ。」

「特技はなにがいいって?」
「操縦技術と、お供のuma(馬)だって」
「だったらすごい操縦技術とすごいuma(馬)になりそうね。」

「どうするの?」と白い髪の女のDUNAがいいました。
「そうねぇ。」とオレンジの髪のDUNAがいいます。

「ちょっとだけ過去に戻してあげるくらいなら、できるけど。」

「本人に聞いてみようか?」と白い女のDUNAは光に近づいていきました。

「彼女やるって。」

hunaの体はどんどんと上にあがりやがて見えなくなりました。

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unaがロケットで到着するだいぶ前の頃です。

その日、氷のお城の近くで、ひとつの命がうまれました。

とても美しい気品漂う女の子の赤ちゃんです。

この子こそ、hunaの生まれ変わりでした。

ふしぎなことにその子は、大人になってから
“パイロットスーツのhuna”と呼ばれたのです。

その後、パイロットスーツのhunaは、
空から飛んできた女の子と一緒に奇妙な旅をしたのです。
やがてすべてのことを思い出しましたパイロットスーツのhunaは
正統な氷の国の女王となり、ともだちのウナや
たくさんの仲間たちと幸せに暮らすこととなりました。

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<第一部unaとふしぎな星・完>

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